私が出会った珍品〈恩賜のサーベルと砲術計測器〉
私が出会った珍品〈恩賜のサーベルと砲術計測器〉
旧日本陸軍の砲工学校は、明治二十二年五月三十一日に設置され、昭和十九年に閉鎖されました。陸軍士官学校を卒業し、陸軍士官に任官した歩兵科などの生徒たちのうち、砲・工兵科の専門教育を受け、修学後、加えて三分の一から四分の一の優秀者が生徒中より選抜されて一年間の高等教育を受けます。
明治二十五年十一月卒業の高等科第一期から昭和八年十一月卒業の第三十九期まで、一部を除き各期砲兵二名、工兵一名の三名ずつ優等卒業生が認定され、第四十三期卒業生を最後に優等卒業生制度は廃されました。
このように高度な技術を会得した高等科の卒業生のうち、さらに優等と認められたわずか二、三名の卒業生のみが栄誉である成績優秀卒業生として称えられることになり、その褒賞として天皇陛下より恩賜のサーベルと計測器などが授与されたのです。
このような事情から、戦後既に七十年近くが過ぎた今となっては、完品で現存するこれらの下賜品は誠に貴重であるといえるでしょう。
今回紹介するのは、第二十七期(大正十年十一月二十四日卒業)の陸軍砲工学校優等卒業生三名のうち、小林軍次砲兵少尉(三十歳)が賜ったお品で、私が数年前にご遺族の姉妹より卒業證書現物を含めてお譲りいただいたものです。
「證書も含めてお譲りするのは、大切に後世に伝えていただける方と見込んでのことですので、なにとぞよろしくお願いします」ということでした。こんな私で大丈夫なのでしょうか?
でも『刀剣界』を通じて全国の皆さまに恩賜の経緯を知っていただけるのですから、お二人も「良かった」と喜んでくれるのではないかと思います。もしかして少しは役に立てたかな。
お品の保存状態は誠に良好です。特に注目していただきたいのが、砲弾の着弾点を測地する砲術測定器です。
無試射射撃を実施し得ることを理想とする砲兵陣地戦においては、射撃の準備段階で、砲弾の弾達点目標位置を正確に決定することが最重点として求められます。万一、測定がずれたり間違ったりした場合、敵砲兵陣地に砲火を浴びせることができないのは無論のこと、着弾点が近すぎた場合には味方の将兵に重大な損失を与えてしまう結果になります。天候が悪く、試射しても目視の着弾点が困難な状況下では、特に間違いは許されません。ですから、優秀な砲兵士官による正確な着弾点計測が勝利のカギになるのです。
計測器一式は、B5大のハードケースに、分度器、コンパス、デバイダーをはじめ、二十五点ほどが納められています。非常に精巧な出来のもので、金属部と象牙の部分に、KHATTORIの刻印、またケース蓋の裏に、銀座四丁目東京ジャパン、K服部株式会社・・・の金箔印がローマ字と英語で押されています。
陛下よりこれらのお品を賜った旧日本陸軍銃砲学校大正十年優等卒業生の小林軍次砲兵少尉は、後に陸軍少将に昇進され、陸軍の兵器・弾薬・器材などの考案・設計・製造・修理などをする施設であった東京第一陸軍造兵廠研究所長、陸軍造兵廠大宮製造所長を歴任されました。
(生野 正)
《※本記事は、弊社代表が執筆し、組合誌「刀剣界 第11号」(2013年5月15日発行)に掲載された内容を再構成したものです。》
旧日本陸軍の砲工学校は、明治二十二年五月三十一日に設置され、昭和十九年に閉鎖されました。陸軍士官学校を卒業し、陸軍士官に任官した歩兵科などの生徒たちのうち、砲・工兵科の専門教育を受け、修学後、加えて三分の一から四分の一の優秀者が生徒中より選抜されて一年間の高等教育を受けます。
明治二十五年十一月卒業の高等科第一期から昭和八年十一月卒業の第三十九期まで、一部を除き各期砲兵二名、工兵一名の三名ずつ優等卒業生が認定され、第四十三期卒業生を最後に優等卒業生制度は廃されました。
このように高度な技術を会得した高等科の卒業生のうち、さらに優等と認められたわずか二、三名の卒業生のみが栄誉である成績優秀卒業生として称えられることになり、その褒賞として天皇陛下より恩賜のサーベルと計測器などが授与されたのです。
このような事情から、戦後既に七十年近くが過ぎた今となっては、完品で現存するこれらの下賜品は誠に貴重であるといえるでしょう。
今回紹介するのは、第二十七期(大正十年十一月二十四日卒業)の陸軍砲工学校優等卒業生三名のうち、小林軍次砲兵少尉(三十歳)が賜ったお品で、私が数年前にご遺族の姉妹より卒業證書現物を含めてお譲りいただいたものです。
「證書も含めてお譲りするのは、大切に後世に伝えていただける方と見込んでのことですので、なにとぞよろしくお願いします」ということでした。こんな私で大丈夫なのでしょうか?
でも『刀剣界』を通じて全国の皆さまに恩賜の経緯を知っていただけるのですから、お二人も「良かった」と喜んでくれるのではないかと思います。もしかして少しは役に立てたかな。
お品の保存状態は誠に良好です。特に注目していただきたいのが、砲弾の着弾点を測地する砲術測定器です。
無試射射撃を実施し得ることを理想とする砲兵陣地戦においては、射撃の準備段階で、砲弾の弾達点目標位置を正確に決定することが最重点として求められます。万一、測定がずれたり間違ったりした場合、敵砲兵陣地に砲火を浴びせることができないのは無論のこと、着弾点が近すぎた場合には味方の将兵に重大な損失を与えてしまう結果になります。天候が悪く、試射しても目視の着弾点が困難な状況下では、特に間違いは許されません。ですから、優秀な砲兵士官による正確な着弾点計測が勝利のカギになるのです。
計測器一式は、B5大のハードケースに、分度器、コンパス、デバイダーをはじめ、二十五点ほどが納められています。非常に精巧な出来のもので、金属部と象牙の部分に、KHATTORIの刻印、またケース蓋の裏に、銀座四丁目東京ジャパン、K服部株式会社・・・の金箔印がローマ字と英語で押されています。
陛下よりこれらのお品を賜った旧日本陸軍銃砲学校大正十年優等卒業生の小林軍次砲兵少尉は、後に陸軍少将に昇進され、陸軍の兵器・弾薬・器材などの考案・設計・製造・修理などをする施設であった東京第一陸軍造兵廠研究所長、陸軍造兵廠大宮製造所長を歴任されました。
(生野 正)
《※本記事は、弊社代表が執筆し、組合誌「刀剣界 第11号」(2013年5月15日発行)に掲載された内容を再構成したものです。》