戦国時代のシャネル家って、ご存じですか? 練馬区立美術館「野口哲哉展ー野口哲哉の武者分類(むしゃぶるい)図鑑ー」
戦国時代のシャネル家って、ご存じですか?
練馬区立美術館「野口哲哉展ー野口哲哉の武者分類(むしゃぶるい)図鑑ー」
戦国時代に「シャネル家」という名家が存在したそうです。皆さんはご存じでしょうか?
美術家の野口哲哉さんが当時のシャネル侍着甲座像を再現して、彼の武者世界を紹介する初の個展を開かれていると聞いて、私は会場となっている練馬区立美術館へと向かいました。
館内に入り、まず野口さんを見つけようと探していると、こんにちはと声を掛けられ、振り向くと三十代半ばの青年が立っています。もしかして野口さんですか。とてもさわやかな雰囲気の男性です。ご挨拶を済ませ作品の案内をお願いしました。
館内には、一貫して鎧をまとった武者を題材に、新作を含め作品約九十点を中心に、彼の発送の原点となった古今の美術作品や写真、グラフィックデザインなどがすごい迫力で展示されていました。
こんなに精巧な鎧姿の武者を作るのには、まず鎧を隅々まで研究し、時代考証を重ねていくと、製作出来るのは一年間に何と四、五体らしい。気が遠くなる時間と手間がかかっていることは、本人が言わずとも作品を見ればわかる。
野口さんは1980年、香川県高松市の生まれ。広島市立大学芸術学部油絵科に進学し、油彩画制作と並行して樹脂粘土を使用した立体作品の制作を開始。同大学大学院修了。今や、樹脂やプラスチックなど、多種多様な現代素材を駆使して鎧武者を製作し、空想と現実が一体となる幻想的な世界を創造する美術作家です。
フランスのココ・シャネルが興した高級ファッションブランドのダブルCマークを家紋とする甲冑を身にまとった紗錬家(シャネル家)の武者像「シャネル侍着甲座像」は、ひときわ目を引く代表作品です。また、兜にプロペラを付けて空中を浮遊する武者の絵画作品「ホバリングマン 浮遊図」は昔、このような武者が実在したかのように奇怪な世界を演出しており、訪れた人々を不思議な空間に誘っています。
戦国時代の武者人を現代の発想と織り交ぜて、彼曰く「でっちあげ」の、実際には存在しない世界を創造しているのではありますが、例えば、侍の表情にも温かさと哀しさが漂っており、作品を一体、そして、一体と見ていくうちに不思議と空想の世界は広がっていきます。私などはすっかり野口さんの世界に引き込まれてしまい、結論としてシャネル家は本当に存在したのだと確信してしまったのです。練馬区立美術館での個展は二月十六日から四月六日で終了してしまいますが、野口さんからは、四月十九日から七月二十七日まで京都府のアサヒビール大山崎山荘美術館において開く予定があると伺いました。特に関西方面の読者には、この機会に野口哲哉さんの不思議な世界にお出かけいただきたいと思います。
甲冑が大好きなあなたにもお勧めします。それはそれは精巧で正確に造られた武者の甲冑を見ていると、一つ欲しくなります。私は今日から一生懸命お金を貯めて野口さんに相談することにしました。
作品展には多くのテレビ取材も入り、大盛況でした。まだ三十四歳の野口さん、活動期間は短いとはいえ、コレクターは国内外に及び、展覧会出品作、個展での評価も高く、今まさに注目される作家の一人です。これからのさらなる活躍を期待します。野口さん、お忙しい中、取材のご協力ありがとうございました。 (生野 正)
《※本記事は、弊社代表が執筆し、組合誌「刀剣界 第17号」(2014年5月15日発行)に掲載された内容を再構成したものです。》