ブック・レビュー 戦場のオシャレは命懸け 『変り兜ー戦国のCOOL DESIGNー』橋本麻里 著 1726円(定価)新潮社
ブック・レビュー
戦場のオシャレは命懸け 『変り兜ー戦国のCOOL DESIGNー』橋本麻里 著 1726円(定価)新潮社
「和をもって尊しとなす」日本の歴史において、戦国時代、甲冑は異様な進化を遂げた。
フサフサの毛虫を模した「七十二間兜」、頭の上にニョッキリ腕が生えたような「金剛杵形兜鉢」…戦場のような緊迫した場で、こんなオモシロセンスを発揮していて大丈夫?
『変り兜ー戦国のCOOL DESIGNー』は、戦国の武将たちが競い合うように作らせた「変り兜」六十点を一挙公開している。どう見ても実用性からかけ離れたデザインのように見えるが、戦場という場での心理的効果も考えた、立派な実用品なのだ。
現代に変り兜のセンスを当てはめるとして、オタクのコスプレ文化ではなく、「いささか古典的なヤンキー文化」との共通性を指摘しているのが、この本の著者・橋本麻里さんである。室町時代以降、武将たちがさまざまに意匠を凝らして競い合った兜を、時代背景を交えながらユニークさを重視したセレクトで紹介している。
全図版に橋本さんが付した解説とキャッチは、秀逸の一言。ウサミミ、植毛、草食系など、思いもよらなかった視点で兜を見ることができる。どれも一読すれば、橋本ワールドに引き込まれることは必至なのだ。
「戦国時代」の合戦のリアルな真実とは?ワビ、サビ、イキだけではない、日本美。有無を言わせぬ造形の強さを、肩肘張らずに楽しめる一冊である。
橋本麻里さんは明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。『芸術新潮』『BRUTUS』などの雑誌記事のほか、高校美術教科書の編集・執筆も手がける。著書に『日本の国宝100』『ニッポンの老舗デザイン』、共著に『浮世絵入門ー恋する春画ー』『運慶ーリアルを超えた天才仏師ー』がある。 (生野 正)
《※本記事は、弊社代表が執筆し、組合誌「刀剣界 第20号」(2014年11月15日発行)に掲載された内容を再構成したものです。》